Reise III
:::: その参 ( 6/03 ) ::::
目を覚まし、急いで寝袋を畳み、出発の準備を整える。時刻は3時。もちろん午前。ここからが今回のメイン・イベントです。詳しい内容は知らなくて、前日に車の中で初めて聞いて、ビビりました。
午前3時は、いくらなんでも真っ暗です。ど田舎だから街灯もわずかだし、前日の雨のせいで道路はぐちゃぐちゃ(表通り以外は舗装なんてされてません)。寝袋など必要ないものを車に残し、そんな中を近所の教会まで歩いていきました。私のボロボロ靴には、あっと言う間に水が染み込んできました。
午前3時半、教会の前には長蛇の列。うごめく人の影。
さぁ、いよいよスタートです。
”Pilgrim”って知ってますか? Pilgrim Fathers だったら聞いたことあると思います。日本語に訳すと、「巡礼」てな感じです。この地方にはPilgrimの慣習があって、年に一度、この地域一帯のメイン教会へ出掛けてミサに出よう!のコーナーなわけです。
さて、それはいかほどものか。この村から目的地のMiercurea Ciuc (Csíkszereda)まで、その距離、約35km。これを、「歩きます」。
真っ暗なので、どこに誰がいるのか、何がどこにあるのか、よくわかりません。経文を唱える声、聖歌を歌う声、先頭を行く鈴の音、私には未知すぎる長蛇の列が、ぞろぞろと歩いて行きます。しかも決してゆっくりとは言いがたいスピードです。
一時間ほど歩くと、だんだん辺りが薄明るくなってきて様子がつかめてきました。列は予想外に長いです。辺りの様子も見えてきました。本当に、山間の小さな村って感じです。
2時間3時間も歩くと、もう何が何だかわかりません。いったいどれ程歩いたのか、あとどれ程歩くのか、気が遠くなってきて、もうどうでもよくなってきます。
あるとき気付いたんですが、ずっと上りなんですよね。だんだん急になってきてるんですよね。話を聞けば、山を越えるそうです。あぁ、やはり。途中から車道を離れて斜面に登りだしました。近道です近道。
せっかく乾いた靴をまた湿らせ、霧の中を進む。やっと頂上を越え、あとは下りだけとのこと。だが下りは下りで歩きづらい… ゴツゴツの地面、泥の地面を下るのは、ラクじゃないです。
そうそう、途中でトラックが停まってるのを何度も見かけました。よく見ると中に人が乗ってます。ははぁ、そういうことですか。歩けない人、怠けたい人用のタクシーです。でもどう見ても、人身売買かなんかのトラックに見えて仕方が無い…
山をほぼ越えたところで、途中休憩。30分程休んだあと、再び出発。ここからは平野です。いくつかの村を通り抜けたのですが、この行列を見物してる方々がたくさんおりました。飲料水を振舞ってる方もおりました。村々の教会は、行列が来ると鐘を鳴らします。
ひとつ書いてなかったことがあるんですが、前日から疑問だったことがあります。ここはルーマニアです。で、私が同行した6人は全員ハンガリー人です。なのに、みんな平気な顔して会話してるんです。今日の行列も、なぜかハンガリーの国旗が目に付く。これはどういうことか。
Transilvaniaという所は、かつてはハンガリー内にあった場所なのです。正確な年数は知りませんが、ルーマニアになってまだ数十年程度でしょうか。そういうわけで、住民たちもハンガリー語を話し、ハンガリー時代(あるいはもっともっと昔)からの風習であるこのPilgrimもハンガリー文化に根付いている、というわけです。(記事中で地名を2ヶ国語で書いているわけは、これです。)
最後の村を通り抜け、いよいよ目的の教会が見えてきました。見えてきた! けど遠い! なぜ着かないの! …と、さんざん思った末、ようやく教会に辿りつきました。ここまで8時間。長い道のりでした。昔の人にとっては「近所」の範囲らしいんですが、私にはちょっとキツかったです…
ここで新たな疑問。なぜみんな止まらないの?
なぜ? なぜなの?
嫌がらせですね(笑)。「この日は大勢が集まる日だから教会には収まらない。→よって集合場所は、その裏手の山頂にある広場になります。」
疲れ果てた足で、教会裏の急斜面を登る。群集が登る。まるでどこかに攻め入るか、逃亡するかのように、民族大移動さながら、群集が斜面を登る。そしてようやく本当にたどり着いた目的地。体力的には限界ぎりぎりでした。しかし一息をつくどころか、目の前の光景にカルチャーショックを受けてしまいました。
山頂に集まった人の数たるや、軽く2、3千人を超えると思われます。遠くウイグル(中国西部)から来た人達もいたそうです。そして初めて見る屋外ミサ。私は福岡にいる頃、海ノ中道で野外ライヴのスタッフをやったことがありますが、なんかそんな状況でした。PA設備や大型スクリーンまで設置してあるし。でも正真正銘カトリックの「ミサ」です。社会科の教科書で「メッカ巡礼(カーバ神殿ですが)」の写真を見たことはありましたが、いざ目の前にすると驚愕してしまいました。