ONGAKU × ONGYOKU

リハーサルにて

 9/28、東京・杉並のsonoriumという会場で、company izuruという能楽をベースにした芸術団体が主催するコンサートがありました。
 「音楽×音曲」… 発表された6曲の作品は、6人の現代音楽の作曲家が、能楽の研究のもとに制作していったものです。

 私はここでステマネ(Stage Manager:曲に合わせ楽譜台や椅子などの配置転換をする人)と録音の仕事をしてました。録音は何度かやってますが、ちゃんとステマネの仕事をするのは初めてだったので、これがなかなか緊張の連続でした。
 前日リハーサルでも、バミリ(設置場所マーキング)のテープを貼っているとはいえ、果たしてこの配置を覚えられるんだろうか…と不安一杯。そして演奏者は最大11名。リハ中のどの段階で最終的な配置が決まるかも分からなかったので、曲を聞く余裕すらありませんでした。

 そして本番。結論から言えばノー・ミスで終わることができ、開演の遅れや演奏が伸びた分まで巻き返すほどバッチリ仕事できたんですが、一回だけ、本当に焦りました。

 演奏終了。次の配置を確認。出演者はけ。ステマネ隊、袖から舞台へ。そして、…

 頭ん中が真っ白。

 これは血の気が引きます。呆然ですよ。
 幸いにして優秀なパートナーがいたので、相棒の動きから配置図を思い出せ、問題もなく転換はできたのですが、へこみますよ、あれは。

 それに会場の事情で白のマスキングテープをバミリにしているせいで、数箇所が剥がれてしまってました。マーキング喪失。「あれ?!ない!ない!!!」 ほんと焦りました。

 さて演奏はどうだったかというと、前日リハでは聴いてる精神的余裕がなかったのに加え、当日はずっとホールの外で待機だったので、ぜんぜん知りません。
 やっとさっき録音したものの確認として、2公演中の最初の公演だけ聴いてみました。

 正直な感想を言うと、もちろん曲によって色々ですが、総合すると、「これは結構おもしろい」です。謡というか歌というものは、その言葉に感情や雰囲気を込めて音に変換していくのですが、それが楽器の音と混じることで、さらにそれが深められていく。

 現代音楽と一言でくくっていいのかは分かりませんが、現代音楽はフレーズ感、和声感、リズム感などがかなり抽象化されていて掴みにくい反面、雰囲気というか、言葉では難しい内面世界の表現に秀でていると思います。背景世界や深遠の世界をより鮮やかに表現できる現代音楽の手法と、日本語に根ざして日本語で歌う謡が組み合わさることで、思わず引き込まれてしまうような非常に立体的な「雰囲気の再現」ができているように思いました。

 せっかくなので録音の話も。今回の録音にはHi-MDを使っていました。今回は事情として、私が録音しながらステマネをやる=録音室は3階でホールは1階なので、本番中に録音機材に触れる人がいない=メディアの収録時間が一杯になったら、それですべておしまい。そして公演時間は2時間を越える予想。
 つまり、CDへの録音は不可。DATレコーダは会場に無いし、自分でも持ってない。手持ちのPCは長時間録音に耐えられるかが非常に怪しいし、そもそも音質上でかなり問題あり。

 そこでHi-MDレコーダを持ち込んで録る事にしたんですが、1GBディスクを使えば普通のMD並かそれ以上の音質で8時間弱も録れる! これは大きな安心感でした。最悪ぜんぜん本番中に機材に触れなくても、最初の公演の前にStart、2公演目の後にStopさえすれば大丈夫なんですから。

 ポータブルのを一台持ってるんですが、去年ドイツで手に入れて以来すっかり気に入ってます。バッテリの充電は35分で完了するし、稼働時間も申し分ない。ちょっと無理して買ったけれど、いい買い物だったんだなぁ…

 そんなわけで、仕事がいったん終わりました。10/01には神戸入りし、11日まで国際芸術祭関連で通訳やら録音やらのスタッフをやってきます。戻ってきたら、コンサートの録音を編集してCDにする作業を進める、というのが今後のとりあえずの予定です。