オンガク

 最近やったコンサート現場と神戸の音楽祭とでちょっとだけ収入があったので、今後への投資も兼ねてヘッドフォンを新調してみた。といっても、5千円程度のですけどね。まだ贅沢は言ってられません。
 オープンエアーな上に耳パッドが柔らかい布だから掛け心地が良くて、長時間の耳仕事でも疲れが半減する感じ。それにしても、2千円アップでこんだけ音が変わるんだなー、と改めて思った。

 せっかくなので色々手持ちの音源を聴いてみる。へーこの曲こんな音が入ってたのね、とか、あーほんとはこんな響きだったんだー、とか、急に解像度が良くなった感じ。近視乱視で目がよく見えてなかった人がコンタクトレンズを装着したときに感じる、あの感動に近い。

 ていうことは、ていうことです。ドイツでのモニター環境は思ってた以上に悪かったのですね。
 向こうでやってたチカラワザのコンサート録音を聴き返して、ちゃんと業務用マイクでやれた神戸の録音現場と聴き比べて、あーやっぱ4千円のミニマイクじゃダメだ(笑)と。
 当たり前なんだけど、それすらよくモニターできない環境でやってたから、いま改めてその事実をはっきりと認識。うん。消してしまいたい余計なノイズが多いし、音もかなり曇ってる。
 でも同時に、そんな機材というか状況でよくあれだけのことやってたなぁとも思いつつ。

 もうひとつの発見は、手持ちのHi-MD Walkmanの音が思ってたより更に良かったこと。MDという規格自体も思ってたより良かったんだろうし、加えてこのHi-MD WalkmanのDAやアンプの性能も良いんだろう。なんだかイヤフォンばかりで使ってたのが申し訳なく思えてきた。ドイツで買ったせいで日本語の説明書が無いのですが(-_-)これからも最前線で使っていきましょう。

 色々聴いてみるついでに、6月に北ドイツBelzigのZEGGでやった雨の中の半屋外コンサートの録音も聴き返してみた。4千円ミニマイク録音だから音の解像度は当然低く、そりゃ豊かな響きなんてありません。音質という意味ではやっぱダメですよね。でもなんか、こう、胸の中で沸き立つものがあるのですよ。
 自分に記憶があるからなのか、録音だけで再現されるのかは判断できないのだけれど、会場の一体感というかそういう、「音質」では測れないものがあって、録音としての良し悪しを超えたものがあるんだよなということを、ふと思い出しました。

 今でも覚えてますけど、あのコンサートは本当に気持ちが良かった。演奏した側も聴いた側も、両方がほんとうに気持ちよかったコンサートでした。

 「あぁ、オンガクってこういうことか。オンガクって、いいな。」

 何気なくそう思えたときでした。

 近頃は色々と現場でテクニカルな事をしすぎてたせいで、こういう素朴な事を忘れかけていたんだと、ふと気付かされました。いけない、いけない。本質を見過ごしてはいけない。

 オンガクって何なのか。
 ゲイジュツってよばれてるヤツは、何のためにあるのか。
 そもそもなんで人間はモノを作り出すのか。

 芸術でも技術でも、作品を生み出す立場であれ、作品を人々に届ける立場であれ、ここを抜きにしてしまったら、元も子もない。本質を失ったものは、死んでいるも同然だ。

 いけない、いけない。
 本質を見過ごしてはいけない。