ものの見方と考え方と

 最近ようやく分かってきたことがあります。長らく悩みの種だったことの根拠が、だんだん浮かび上がってきました。

 私たちの学ぶアントロポゾフィー(Anthroposophie/人智学)の基礎を成す考え方に、4分割の原理があります。世界は4つの要素で出来ている、という考え方で、陰陽道なら陰/陽の2が基本、あるいは善/悪なんかも2分割の姿勢をとっています。では人智学で言うところの4つの要素を図に示してみましょう。

 火・空気・水・土というのは単に象徴的な名前であって、言うなれば「拡張性」「柔軟性」「流動性」「安定性」の4つです(正確にはこれらの単語だけでは範囲を含みきれないので、4つの名前を使っています)。で全ての物事はこれらの組み合わせで成り立っている、という考え方なのです。これら4つの要素は人智学で初めて表現されたというわけではなく、古来より神秘学や秘術・魔術なんかでも非常に多用されていた考え方であり、アメリカ・インディアンの思想でも同じ考え方が基礎をなしています(インディオの思想では、中央に「虚」がありますが)。

 この4要素を基本にして、人間の性格も4つに分類したりします。
Erde/土: Melancholisch(常に悲しみを背負っているような性格)
Wasser/水: Phlegmatisch(粘り強い性格)
Luft/空気: Sanguinisch(楽天的/移り気な性格)
Feuer/火: Cholerisch(怒りっぽい/瞬発力のある性格)

 私なんかはWasser気質が強いなぁと思ったり。革命家なんかは、Feuer気質が強い人が多いです。って、まぁどうでもいいですね。

 さてこの4分割なんですが、どうもしっくりきませんでした。なんというか、「そうも言えるけどそれだけじゃないよね」っていう違和感。なのに授業ではいたる所で登場し、理論的な話でも、身体表現の話でも、常に付いてまわる。何でもかんでも4つに分けて考えようとする。これが私にはどうしても気持ちが悪くて、納得しきれませんでした。時には3分割や2分割、あるいは7分割のほうが物事がよく捉えられる場合だってあるだろうに…と。
 でも最近ようやく本当の意味が分かってきました。西欧文化の人間には、本当にこの考え方が必要なようなんです。

 「物事には様々な面がある」というのは常識だと思います。例えば「だるい」という感覚には、肉体的原因やら精神的原因やら、色々な事情が絡んでいるのは容易に理解できると思います。そういうもの全てが合わさって「だるい」である、と。
 ところが西欧文化人にとっては、そうはいかないようなのです。「だるい」は「だるい」であって、それを多角的に判断することは、発想としてないようなのです。

 日本的な美として「味わい深い」という言葉があります。料理でいえば、砂糖も塩も酒も混じって、野菜や肉の味も混じって、「深い」おいしさ。陶磁器で言えば、微妙な焼き色の混じった、微妙な歪んだカタチの「深い」美しさ。
 ところが、例えばドイツ食で言えば、塩辛いのもは塩辛いし、甘いものは甘い。「微妙な」味わいという発想は、どうも無いのです。言うなれば、すべて単純。

 これを生活の中で実践すると、「いま僕はやる気が無い → やらない」「いま私はこれがやりたい → やる」となるわけで、まぁ非常に素直な性格なわけですが、実生活の中で様々な問題を生むのは用意に想像できると思います。
 簡単な例で言えば、集団生活において、みんなの共同の部屋が汚いという状況で、「いま部屋が汚い」と言うことはできるけれど、「自分も汚している一人だ」と問題から自分の側を見つめる視点を持てないのです。
 あるいは「人生」を考える時に多角的に目標や価値を判断できないから、詰まってしまった時に進むべき道を悩むことが増えるのです。

 なぜこの学校でひたすら4次元的な解釈をするのか。それは彼らが多角的に物事を捉えられるようになるための訓練なのです。私はいまでも時には3次元や7次元やもっと数多い次元からの解釈が適当だと思うけれど、まずその第一歩として彼らは4次元解釈を体得する必要がある、ということなのです。

 西欧社会では「個人の自由」を尊重します。これは良いことだと思います。けれど問題なのは、本人達が自由の「本当の意味」を捉えていないということ。自由を正しく捉えられず、浅はかな「自分の思い通りになる」だけの自由を実行している気があります。そう、考えが「浅はか」なんです。だからこそ物事を正確に判断し捉えられるために、まず4次元的な解釈を身につける必要がある、ということなのです。

 本当に、人間こうも違う考え方を持てるのかと関心します。でも考えの浅はかさを知るたびにガックリくるので、私に無くて彼らにある能力はなんだろうと考えてみました。

 「深く考えずにとりあえずなんでもやってしまえる行動力」

 うん、必要な要素ではあるが。

P.S.
色々な質問をされて、答えに詰まることがよくあります。
Q.「これ好き? どう思う? 良い?ダメ?」
A.「どうって言われても… ここは良いけど悪い点もいっぱいあるし…」

巷では「日本人ははっきりしない」と言われることは多いようですが、もっともっと「はっきりしない」一筋縄ではいかない深~い思慮を身に付けていきたいと思います。